石膏ボードの黎明と現代日本の実情

石膏ボードの話

こんにちは、村山太郎です。
過去にこんな文章を書いておりました。

石膏ボードの黎明

ドライウォールというと、クロスを使用しないで塗装で仕上げる内装だと考える人が多いのですが、実情は異なります。
現場で防火性のある石膏プラスターや漆喰を厚く塗り、乾燥させる『湿式』の左官仕上の壁に対し、既成の石膏ボードを用いて『乾燥時間の必要のない』壁を乾式壁工法、乾いた壁、つまりドライウォールといいます。クロスや塗装は、その上の表面仕上げの方法に過ぎないのです。

漆喰壁に対しての石膏ボードを用いるメリットは、主に工期の短縮にあります。今でこそドライウォールは工法として洗練されていますが、開発された当初はボードの繋ぎ目はそのままで、曲線壁も作る事が出来ませんでした。当然、消費者は、安普請(やすぶしん)の石膏ボードより従来の左官仕上の壁を好みます。従って、石膏ボードは、当初は、デザインがあまり重要とされない、軍事用途として使われていました。乾燥時間の必要としない石膏ボードの特性が、基地建設の工期短縮という需要に合致したのでです。

しかし、ドライウォールの工法は改良されていきます。複数枚の石膏ボードで構成された壁を、一枚の壁に見せる方法(つなぎ目を目立たなくさせる方法)が考案されると、例えば仕上がった壁を見た時に、従来の左官仕上で作られた壁とついに見分けがつかなくなりました。かくして、住宅にも石膏ボードが導入されるようになり、ドライウォールは主流となりました。

住宅においてのおおまかな石膏ボードの黎明(れいめい)は以上です。

石膏ボードの設計・施工においての重要ポイント

設計、施工において重要な事は二点あります。

  1. 燃えるもの「木」は、燃えないもの「石膏」で覆う必要があるということ[耐火被覆]。
  2. 石膏ボードは出来うる限り大きいサイズのものを使用し繋ぎ目は極力少なくすること。

ひとつめの耐火被覆は、木造建築の大原則です。前述のようにアメリカの木造建築においては古くは石膏プラスターや漆喰で被覆されていました。我が国、日本の木造建築は世界でも類を見ない高度に洗練されたもの、とイメージを抱く方が多いと思うのですが、残念ながら火災対策においてその水準にあったとは言い難く、しばしば過去に大きな火災に見舞われています。古く江戸時代は、一軒の失火で町が燃えつくされ、戦時中は、焼夷弾(しょういだん)で町が燃え尽くされています。特に木構造があらわしとなる真壁、草葺屋根(くさぶきやね)は火災に弱いのです。ちなみに火に強いはずの瓦も地震時はずれ落ちてしまってその意味がなかったのですが、地震による火災と平時の火災は異なるので、今回は平時の火災のみについて書こうと思います。

そもそも、今更書くまでもないのですが、木は燃えやすいのです。大手ハウスメーカーの○○ホームはwebの広告で、軽量鉄骨構造との比較で、火災時の木構造の優位性を説いているが、意図的なミスリードのように思います。同じく、『昔ながらの家づくり、伝統復古、本物』等の美辞麗句で、石膏ボードをあたかも不健康なもののように扱い、木構造を内外装にあらわす提案や志向を散見しますが、特別な防火対策なく首都圏の住宅密集地でこれを行うのは、殆ど犯罪行為に近いとも思います。大津波の危険性や歴史を知りながら、海の近くの土地を開発した愚行に似ています。とにかく、木材は火に弱いから、燃えないもので被覆する必要があるのです。木造建築ではこれは鉄則、過去からの教訓です。

ふたつめのボードの繋ぎ目を極力少なくする理由は、繋ぎ目が防火上の弱点であるという事と、そして石膏ボードの割れの防止のためです。防火上の弱点である理由は、例えば、軸組の省令準耐火構造の資料ですが、横浜市都市整備局が発行している木造2階建 準耐火建築物「設計・施工のポイント」に以下の記載があります。

『石膏ボードの繋ぎ目に当て木のない場合は、発火後1分ほどで壁内部へ炎が貫通を始め(中略)大きく延焼し始めた。防火被覆の継目に隙間が無い施工であっても、裏側に当て木がなければ容易に燃えぬけてしまう。』

この文章は、石膏ボードの繋ぎ目の当て木の重要性を説くものですが、同時に石膏ボードの繋ぎ目が、防火上まるでアキレス腱のように弱点である事も示唆しています。どんなに隙間をなくした丁寧な施工であっても、石膏ボードの繋ぎ目から構造体の木材へ炎が入り込んでしまうのです。つまり、石膏ボードは出来うる限り大きいサイズを使用し、極力繋ぎ目を無くす事が理想なのですが、しかし、多くの日本の建築現場では壁にこそ3×8版、3×9版が使われているが、天井となると最も小さい3×6版を用いるのが実情です。これから家づくりをされる方は、この現状をどのように感じるのでしょうか。フラット35の枠組壁工法住宅工事仕様書でも、『天井張りに用いるせっこうボードは、4’×8’版、3’×9’版又は3’×12’版とする。ただし、やむを得ない場合は、3’×6’版とすることができる。』の記載がある。『やむを得ない』のが標準化しているならば、それはもう『やむを得ない』ではないのではないだろうか。一石を投じたい。

↑残念ながら改定でこの規定はなくなってしまいました。。

また、石膏ボードの割れは、その殆どがボードの繋ぎ目に発生します。原因は、構造の木材の乾燥収縮や沈み込み、地震の際の揺れのストレスにより、構造的に弱いジョイント部に、荷重としてずれるような力がかかるからです。大きなサイズを使えば1枚だけで施工出来たところが、複数枚使ったために割れてしまう。割れはそのまま表面のクロスにも表れる。美観の上でも防火の上でも良いものではありません(つづく)。